藝大プロジェクト2024第2回「日本が見た西洋音楽」
独自の視点からアプローチを試みる演奏藝術センターのオリジナル企画「藝大プロジェクト」。例年に負けず劣らず、音楽のみならず学内の各専攻、そして学外からも多くの方々の協力を得、今年度は「西洋音楽が見た日本/日本が見た西洋音楽」をテーマに全2回シリーズでお送りします。表裏一体であるこの2つの切り口から紡ぎ出される音楽のダイナミズムをぜひご堪能ください。 (演奏藝術センター 楠田健太)
「戦後」の長さは、明治維新から終戦までの(戦中を含んだ)「戦前」を超えました。長いパンデミックを終え、東京をはじめとした都市部や観光地には海外からの観光客らが溢れかえり、大阪では万国博覧会を来年に控えています。いっぽうで地方の過疎化はますます進み、その悲惨な状況は、残念ながら震災後の復興の遅さによって明らかになってしまいました。外部から見られることに慣れきった「日本」は、自らを見ることを、自らの裡に向き合うことをはたしてしているのでしょうか。わたしたちはこの近代日本が何かということを、改めて考える必要性に迫られています。そしてその重要な役割を担うもののひとつが、芸術です。 芸術は具体的な解決策を提示できるものではありません。芸術はだれの病気も、だれの飢えも、だれの生命も救うことはできません。しかし、優れた芸術体験は、速いスピードで動き続ける現代のひとびとを立ち止まらせ、それぞれの感情や思考によって自らや対象を吟味するきっかけを作り出すことができます。 18世紀末、鎖国をしていた頃の日本は、見られることに気が付かないまま西洋音楽から見られていました。その百年後、開国をした日本は、西洋の文化を取り入れようと積極的に西洋音楽を見ました。何を見ているか、ということは、主体の意識・無意識を問わず、必ずや主体の選択の結果としてあらわれます。西洋音楽は日本の何を見て、日本は西洋音楽の何を見たのか。藝大プロジェクト2024「西洋音楽が見た日本/日本が見た西洋音楽」は、2つの公演を通して、西洋音楽に、そして日本に迫ります。 (演奏藝術センター 布施砂丘彦)
幻の作品が復活!クラウス・プリングスハイム《山田長政》 「西洋音楽が見た日本」というテーマのもとミヒャエル・ハイドンによる音楽舞台劇を取り上げる第1回に対して、第2回では「日本が見た西洋音楽」がテーマです。日本における西洋音楽の普及に多大な足跡を残したクラウス・プリングスハイム、そしてその同時代を生きた日本人作曲家、信時潔、髙田三郎の作品群をお届けします。プリングスハイム、信時、髙田の三人はいずれも、本学の前身である東京音楽学校にもゆかりの深い人物たちでもあります。彼らの作品を通じて、日本は西洋音楽をどのように受容し、自らの血肉としてきたのか。近代日本の音楽史に精通する片山杜秀、仲辻真帆とともに掘り下げます。 なかでも後半で取り上げるプリングスハイムの《山田長政》(1939)は、国内各地のアーカイブを訪ねるも完全版のスコアが現存しません。それを今回特別に、現在ドイツに在住するご遺族の了承のもと、本学作曲科卒業生による「補筆完成版」として上演します。 高山右近に材を採った《ティトゥス・ウコンドン》から約1世紀半。生涯をヨーロッパで過ごしたミヒャエルと対照的に、ドイツから日本へ渡り、タイでも暮らしたプリングスハイムが、奇しくも右近と同時代に活躍した日本の武将を取り上げた―。江戸から明治、大正、昭和と目まぐるしく移る時代のなか、両作品を通してその「間」に思いを馳せていただければ幸いです。
第一部
信時潔《いろはうた》【無伴奏合唱】信時潔《いろはうた》 (クラウス・プリングスハイム編曲)【チェロ、ピアノ】
髙田三郎《山形民謡によるバラード》 (岡崎隆編曲)【弦楽合奏版】
第二部クラウス・プリングスハイム 《山田長政》(小島夏香補作)
█ 出演
安良岡章夫(指揮)黒田祐貴(バリトン/山田長政)松岡多恵(ソプラノ/リカ)根本真澄(ソプラノ/トカウハム)向山佳絵子(チェロ)江口玲(ピアノ)谷本喜基(合唱指揮)小島夏香(補作)片山杜秀・仲辻真帆(お話)東京藝術大学音楽学部有志を中心としたオーケストラ・合唱
※スケジュール・曲目・出演者等は都合により変更となる場合がありますので、ご了承ください。
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