藝大フィルハーモニア管弦楽団 定期演奏会
(藝大定期第418回)
「二十二人を偲び、祈る」
2023年10月13日(金)19:00開演
東京藝術大学奏楽堂
藝大フィルハーモニア管弦楽団のこの定期演奏会には、謎めいたコピーが冠されている。演奏会の曲目にはエルガーの《エニグマ(謎)》変奏曲が含まれているが、演奏会自体がまるで謎かけのようだ。
「22人」とは誰か。その手掛かりは、まずラヴェルとエルガーの作品にある。この2曲は、「誰か」に捧げられた曲ということで共通している。ラヴェルの《クープランの墓》(1914~17/19編曲)は、第一次世界大戦で戦死した友人たち7人に各曲が捧げられた6曲のピアノ組曲で、演奏されるのはそのうち4曲(2人に捧げられた《リゴードン》を含む)を抜粋し作曲者自身が編曲した管弦楽組曲だ。エルガーの創作主題による変奏曲《エニグマ》はエルガー自身と妻アリスを含む14人の肖像である。以上、「捧げられた」人々の総数は5人+14人=19人。これに作曲家3人を加えると22人だが、エルガーは《エニグマ》の中で自画像を描かれているから除外すると、21人。残り一名は誰か。ラヴェルが、バロック期の鍵盤組曲をモデルとした組曲の象徴として選んだ18世紀の作曲家フランソワ・クープランか?
いや、むしろジョリヴェのバソン(ファゴット)と室内管弦楽のための協奏曲(1954~55)に、手掛かりが隠されていそうだ。メシアンと共に戦後フランス音楽界を牽引したジョリヴェの協奏曲は、緩急緩急の構成からなり、バロック時代の「教会ソナタ」を想起させる(一方でジャズの影響もあるが)。この点でラヴェルの組曲、エルガーの変奏曲と、いずれも古典的な形式をとることで共通している。そして、もしかしたら超絶技巧が求められるファゴット(オリジナルはフランス式ファゴットのバソン) 独奏者こそが作曲者の想いを捧げられた「残りの1名」である、という解釈ができるかもしれない。
この点は、はっきりと明かされていない。だが演奏会に「偲び、祈る」というコピーが冠されているのは、演奏会に先達への何らかの敬意の想いが託されているためなのだろう。そして演奏会を訪れる私たちは、それぞれにとっての「大切な人々」への想いを新たにする...。
以上はあくまで、私の解釈。皆さまそれぞれの形で、山下一史率いる藝大フィルハーモニア管弦楽団の輝かしいオーケストラ・サウンドの向こうに隠された、「謎」を聴きに行こうではありませんか。
矢澤孝樹(音楽評論)
▊曲目
モーリス・ラヴェル:組曲《クープランの墓》 Maurice Ravel(1875-1937): Suite “ le tombeau de Couperin ”
アンドレ・ジョリヴェ:ファゴット協奏曲 André Jolivet(1905-1974): Concerto pour Basson et Orchestre à cordes,Harpe et Piano エドワード・エルガー:創作主題による変奏曲「エニグマ(謎)」 Edward Elgar(1857-1934): Variations on an original theme ‘ Enigma ’
▊出演
指揮:山下一史 Conductor:Kazufumi Yamashita
桐朋学園大学を卒業後、ベルリン芸術大学に留学、ニコライ・マルコ国際指揮者コンクールで優勝。カラヤンが亡くなるまで彼のアシスタントを務める。その後、ヘルシンボリ響首席客演指揮者を務めた。日本国内ではN響を指揮してデビュー、以後主要オーケストラに定期的に出演、好評を得ている。これまでにアンサンブル金沢プリンシパル・ゲスト・コンダクター、九響常任指揮者、大阪音大ザ・カレッジ・オペラハウス管常任指揮者ならびに名誉指揮者、仙台フィル指揮者ならびに正指揮者を歴任。シューマン作曲歌劇「ゲノフェーファ」日本舞台初演など、オペラ、オーケストラの両面においてますます注目を浴びている。千葉交響楽団音楽監督、愛知室内オーケストラ音楽監督、大阪交響楽団常任指揮者、東京藝術大学音楽学部指揮科教授。
ファゴット:岡本正之 Bassoon:Masayuki Okamoto
1966年東京生まれ。13歳からファゴットを始める。その不思議なフォルムから生まれる神秘的な音色の魅力に取り憑かれ、将来はオーケストラでファゴットを演奏したいと子供心に夢見たのもこの頃。1989年東京藝術大学音楽学部卒業、同年、東京都交響楽団首席ファゴット奏者に就任。第6回日本管打楽器コンクールファゴット部門第一位、および大賞受賞。2003年東京オペラシティリサイタルホールにて『B→Cリサイタル』。宮崎音楽祭、霧島音楽祭、木曽音楽祭などに参加。東京藝術大学音楽学部准教授。桐朋学園大学特任教授。日本ファゴット協会副会長。ALMレーベルよりピアノの永原緑氏とのアルバム「Récit」、ピアノの横山希氏とのアルバム「Adagio und Allegro」を発表のほか、管楽アンサンブルでも多数録音を発表している。
管弦楽 : 藝大フィルハーモニア管弦楽団 Orchestra : The Geidai Philharmonia Orchestra, Tokyo
藝大フィルハーモニア管弦楽団は東京藝術大学に所属するプロフェッショナル・オーケストラ。「定期演奏会」のほか、「合唱定期」、「オペラ定期」、「モーニング・コンサート」などを行っている。前身である東京音楽学校管弦楽団は、我が国初の本格的なオーケストラで、ベートーヴェンの《交響曲第5番「運命」》、《交響曲第9番「合唱付き」》、チャイコフスキーの《交響曲第6番「悲愴」》を本邦初演し、日本の音楽界の礎石としての活動を果たしてきた。(公益社団法人)日本オーケストラ連盟準会員。
※スケジュール・曲目・出演者等は都合により変更となる場合がありますので、ご了承ください
チケット発売:8月9日(水)
ヴォートル・チケットセンター https://www.ticket.votre.co.jp TEL:03-5355-1280/平日 10:00~18:00
チケットぴあ https://t.pia.jp/ 《Pコード 249-485》
東京文化会館チケットサービス https://www.t-bunka.jp/tickets/ TEL:03-5685-0650/ 10:00~18:00 休館日を除く 店頭販売:10:00~19:00 休館日を除く
イープラス(e+) https://eplus.jp/
藝大アートプラザ (店頭販売のみ) TEL:050-5525-2102/10:00~18:00 月・火曜休、他臨時休業日を除く
※車椅子をご利用のお客様は、ヴォートル・チケットセンター TEL:03-5355-1280(平日10:00~18:00)までお問い合わせください。
※チケットご購入の際にかかる手数料など詳細は各店舗へお問合わせください。
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